会議で発言しても、声が全員に届かない。接客中に「もう一度お願いします」と聞き返される。電話口で名前を何度も言い直す。
こうした悩みは、声の大きさが足りないから起きているとは限りません。声量を上げても通らない声は通らず、喉が疲れるだけで終わります。
通る声を出す方法の要点は、息の支え・喉の開き・響かせる場所の3つです。どれも生まれつきの声質ではなく、練習で変えられる部分にあたります。
この記事では、通る声と通らない声の違いを整理したうえで、朝5分の準備、呼吸と姿勢、共鳴腔の使い分け、場面別の使い分けまでを順に紹介します。最後に1日3分でまわせる実践メニューをまとめました。
通る声と通らない声の違いは音量ではなく響き
同じ大きさで話しても、届く声と届かない声があります。この差を生んでいるのが響きです。
声帯が作る音そのものは、実はごく小さな振動です。その音が口の中・鼻の奥・胸といった空間で響いて増幅され、はじめて相手の耳に届く声になります。響く空間を使えていない声は、音量を上げても輪郭がぼやけたまま大きくなるだけで、ざわついた場所ほど埋もれます。
逆に響きが乗った声は、小さめの声量でも言葉の輪郭が残ります。声を張らずに聞き取ってもらえるので、喉も疲れません。
声が通らない人に共通する4つの特徴
声が通らないと言われる人には、共通する状態があります。自分に当てはまるものがあるか確認してみてください。
- 息が浅く、話し始めてすぐ息が足りなくなる
- 声を出すときに喉や首、肩に力が入る
- 口の開きが小さく、語尾が落ちて消える
- 響かせる場所を使っておらず、喉だけで音を作っている
4つとも、力を抜く方向で改善できる項目です。声を強く出す練習より先に、力みを取ることから始めた方が近道になります。
「生まれつき声が通らない」はどこまで本当か
声が通らないのは生まれつきだと考えて、あきらめてしまう人がいます。ただ、生まれつきの要素と後から変えられる要素は分けて考えた方が現実的です。
| 変えにくい要素 | 練習で変えられる要素 |
|---|---|
| 声帯の長さや厚み | 息の量と支え |
| 骨格・声道の形 | 喉の開き具合 |
| 地声の高さの傾向 | 響かせる場所の使い分け |
| 声の音色の個性 | 口の開き・語尾・話す速さ |
声の高さや音色には確かに生まれつきの差があります。一方で「届くかどうか」を決めているのは右の列、つまり使い方の側です。地声が高めでも低めでも、響きを足せば届く声になります。
音無し声が小さいのはもう体質だと思っていました



体質で決まるのは声色の方だよ。届く距離は使い方で変わる
通る声を出す方法1:朝5分で声帯を起こす


朝起きてすぐの声と、午後の声は別物です。起き抜けは声帯が動き出しておらず、粘膜も乾いています。
その状態で大きな声を出そうとすると、足りない分を喉の力で補う形になります。かすれや震えが出るのは声量不足ではなく、準備不足が原因です。
午前の会議で声が安定しない理由
始業直後の会議や朝礼で声が出にくいのは、その日まだ声をほとんど使っていないからです。ウォーミングアップなしで走り出すのと同じ状態で、いきなり本番の声量を求めていることになります。
発声の前に軽く音を出しておくだけで、立ち上がりが変わります。出社前でも、移動中の車内でも、ハミング程度なら周囲に響きません。
5秒サイクルの音階往復とリップロール
朝のメニューは3つで足ります。
1つ目は音階の往復です。「あー」と低い音から高い音へ上げ、また低い音へ戻る動きを5秒で1周とし、2周以上繰り返します。円を描くようになめらかにつなげるのがポイントで、このとき頭は動かさず固定します。頭は音を響かせる場所なので、揺らすと響きが安定しません。
2つ目はリップロールです。唇を軽く閉じてブルブルと震わせながら声を出します。3つ目はタングトリルで、舌を巻いて「トゥルルル」と鳴らします。どちらも力が入っていると続かないため、脱力できているかの判定にもなります。
- 低音から高音への往復を5秒1周で2周以上
- 頭は固定し、肩と首の力を抜く
- リップロールを10秒
- タングトリルを10秒
合計しても2分かかりません。プレゼンや商談の直前にトイレなどで行うだけでも、1声目の安定感が変わります。
通る声を出す方法2:息の支えをつくる呼吸と姿勢


腹式呼吸ができれば通る声になる、とよく言われます。ただし呼吸は土台であって、それだけで響きが生まれるわけではありません。
そして腹式呼吸そのものも、上半身がこわばっていると成立しません。息が浅いと声を支える力が足りず、結局は喉で押し出す発声に戻ります。
鼻70%・口30%で吸うと息が深く入る
息を吸うとき、口だけで吸っている人は多いです。鼻を中心に吸うと、息が深いところまで入りやすくなります。
口は半開きにして力を抜き、鼻から7割、口から3割程度の配分で吸います。歯科で麻酔をかけられたときのような、だらんとした口の状態が目安です。息は身体の後ろ側へ送り込むつもりで入れます。
吐くときは口を縦に開け、「ホッ」と一気に吐き切ります。残った息を出し切ると、次に入る息の量が自然に増えます。ここで力むと喉が締まるので、吐く動作もリラックスしたまま行ってください。
- 鼻70%・口30%の配分で吸う
- 口は半開きにして力を抜く
- 身体の後ろ側へ息を送る意識をもつ
- 「ホッ」と一気に吐き切る
腹式呼吸ができているかは、おなかに手を当てて確認できます。息を吐いたときにおなかが5ミリから1センチへこめば、横隔膜が使えています。胸だけが上下している場合は、まだ浅い呼吸です。
肩甲骨がかたいと息は深く入らない
デスクワークが続くと、肩甲骨まわりが固まります。胸が開かなくなり、息の入る量が減ります。
呼吸の練習をしても変化が出ないときは、呼吸そのものより先に、上半身のかたさを疑ってください。感覚は頭で理解するより、体を動かして覚えた方が早く身につきます。
前屈姿勢で肩甲骨の間に息を入れる
前屈のような姿勢を取り、上半身の力を完全に抜きます。その状態でゆっくり深呼吸を繰り返すと、肩甲骨の間が開いて、そこへ息が流れ込む感覚が出てきます。
最初はわかりにくくても問題ありません。この感覚をつかめると、力を抜いたまま声を出す状態が再現しやすくなります。
クロールと背泳ぎの動きで胸と肩甲骨をほぐす
腕を大きく回す動きが向いています。クロールのように前へ回す動きと、背泳ぎのように後ろへ回す動きを、ゆっくり大きく行います。
前へ回すときは肩甲骨をはがすように、後ろへ回すときは胸を広げるように動かします。呼吸は止めず、深呼吸を続けながら行ってください。左右それぞれ5回ずつで、胸まわりの動きが変わります。
通る声を出す方法3:共鳴腔を使い分けて響きを足す


ここが通る声の中心です。響かせる場所は大きく3つ、口の中の上側にある口蓋、鼻の奥にある鼻腔、そして胸です。
鼻腔で響かせると明るさと前方向への飛びが出て、胸で響かせると低音に重みが出ます。両方を混ぜられると、遠くまで届いて、なおかつ落ち着いた声になります。
「んー」の鼻腔共鳴で声を前に飛ばす
口を閉じて「んー」と声を出します。鼻の奥や額のあたりがしびれるように振動していれば、鼻腔に響いています。
振動を確認できたら、その響きを保ったまま口を開き、「まー」「なー」と言葉に移します。話し声にそのまま持ち込めるようになると、声が前へ飛ぶようになります。
- 口を閉じて「んー」と声を出す
- 鼻の奥と額の振動を手で確認する
- 響きを保ったまま「まー」「なー」へ移す
- 最後に普通の会話文で同じ響きを再現する
あくびの口で喉を開くと言葉がはっきりする
喉が閉まっていると、声がこもって聞き取りにくくなります。あくびをする直前の、喉の奥が広がった状態が目安です。
この形のまま話すと、音の抜けがよくなり、語尾まで言葉が残ります。喉を開けるようになると、声量を上げなくても届くようになるため、長時間話しても消耗しません。
胸の共鳴で低音に重みを出す
胸に手を当てて「あー」と低めの声を出します。手のひらに振動が伝わっていれば、胸で響かせられています。
胸の共鳴は低い音域で強く出ます。トーンを少し下げ、胸の振動を感じながら話すと、声に落ち着きと厚みが加わります。



鼻と胸、どちらを優先すればいいですか?



届く距離がほしいなら鼻、信頼感を出したいなら胸。場面で切り替えるのがいちばん実用的だよ
会議・プレゼン・接客・電話で響かせ方を使い分ける
通る声は、どの場面でも同じ出し方をするものではありません。距離を稼ぎたいのか、信頼感を出したいのかで、優先する響きが変わります。
| 場面 | 優先する響き | 意識すること |
|---|---|---|
| 広い会場でのプレゼン | 鼻腔+胸 | 鼻腔で前に飛ばし、胸で音量を支える |
| 商談・重要な結論を伝える場面 | 胸 | トーンを下げ、いつもより遅く話す |
| 店頭の接客・呼びかけ | 鼻腔 | 喉を開き、語尾を落とさず言い切る |
| 電話・オンライン会議 | 鼻腔+口蓋 | 子音をはっきり出し、口の開きを大きくする |
| 少人数の会議 | 胸 | 音量を上げず、響きだけを足す |
電話やオンライン会議では、低音がマイクで削られやすくなります。この場面だけは胸よりも、子音の明瞭さと鼻腔の響きを優先した方が伝わります。
1日3分で回す通る声のトレーニングメニュー
長時間まとめて行うより、短い時間を毎日続けた方が定着します。ここまでの内容を1日3分に収めたのが次のメニューです。
| タイミング | メニュー | 時間 | 狙い |
|---|---|---|---|
| 起床後 | 音階の往復(5秒1周を2周) | 30秒 | 声帯を動かす |
| 起床後 | リップロール・タングトリル | 20秒 | 口まわりの脱力 |
| 起床後 | クロールと背泳ぎの腕回し | 40秒 | 肩甲骨と胸を開く |
| 日中 | 鼻70%・口30%の呼吸 | 30秒 | 息の支えを戻す |
| 本番直前 | 「んー」のハミング | 30秒 | 鼻腔の響きを立ち上げる |
| 本番直前 | あくびの口で1文だけ音読 | 30秒 | 喉を開いた状態を確認 |
変化を確認したい場合は、始める前に自分の声をスマートフォンで録音しておいてください。2週間後に同じ文章を録り、聞き比べると差がわかります。自分の耳では骨伝導が混ざるため、録音での確認が確実です。
独学で変わらないときに見直す3点
続けているのに手応えがない場合、原因はたいてい次の3つのどれかです。
- 期間が足りない。声の変化は数日では出にくく、2週間から3か月が目安
- 録音していない。自分の耳だけで判断すると変化に気づけない
- 力みが残っている。喉に力が入ったまま反復すると、癖が強化される
3つ目の力みは、自分では判別しにくい部分です。録音を聞いても原因が特定できないときは、第三者に聞いてもらうのが早道になります。ボイストレーニング教室の無料体験レッスンでは、発声を聞いたうえでどこに力が入っているかを指摘してもらえるため、独学の詰まりを解消する手段として使えます。話し方やビジネスボイスに対応したコースを持つ教室なら、歌以外の目的でも相談できます。
よくある質問
- 声が通らないのは生まれつきですか?
-
声帯の長さや骨格には個人差があり、声の高さや音色は生まれつきの影響を受けます。ただし届くかどうかを決めているのは、息の支え・喉の開き・響かせる場所の使い方で、こちらは練習で変えられます。
- 声が通る人にはどんな特徴がありますか?
-
息が深く入っていること、喉に力が入っていないこと、鼻腔や胸の響きを使えていること、語尾まで言い切ることの4点が共通しています。声量が大きいかどうかは、必ずしも一致しません。
- 地声が小さくても通る声は出せますか?
-
出せます。響きが乗った声は、小さめの声量でも言葉の輪郭が残るため聞き取ってもらえます。声を張る方向で解決しようとすると喉を痛めやすいので、鼻腔共鳴から取り組むことをおすすめします。
- 腹式呼吸ができているか確認する方法はありますか?
-
おなかに手を当てて、息を吐いたときにおなかが5ミリから1センチへこめばできています。胸だけが上下している場合は、まだ息が浅い状態です。
- 鼻腔共鳴の感覚がつかめないときのコツは?
-
口を閉じて「んー」と出しながら、鼻の横や額に指を軽く当ててみてください。耳で聞くより、指で振動を確かめる方がわかりやすくなります。音の高さを少し上げると振動が強く出ます。
- どれくらい続けると効果が出ますか?
-
個人差はありますが、1日3分を2週間続けると立ち上がりの安定を感じる人が多く、明確な変化までは3か月程度が目安です。毎日が難しい場合は週2〜3回でも、続ける方が優先されます。
まとめ:通る声を出す方法は準備・支え・響きの3段階
通る声と通らない声を分けているのは音量ではなく響きです。声帯の音そのものは小さく、口・鼻・胸で響かせてはじめて届く声になります。
手順は3段階です。朝5分で声帯を起こし、鼻70%・口30%の呼吸と肩甲骨のストレッチで息の支えを作り、鼻腔と胸の響きを場面で使い分けます。広い会場では鼻腔と胸の併用、商談ではトーンを下げた胸の響き、電話では子音の明瞭さを優先します。
まずは1日3分のメニューを2週間続け、開始前と2週間後の声を録音で比べてみてください。声を大きくしようとするのではなく、響かせる場所を変える。届く距離は、そこで決まります。






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